【資料】カミングアウトされた親のたどる心理プロセス2008年05月31日 16:01

 2007年の春に、「LGBTの家族と友人をつなぐ会」で話をしたときに、「そこで話すのにふさわしいトピックを」と思い、あれこれ海外のサイトをさがしていて、「カミングアウトされた親のたどる心理プロセス」が、“OutProud”のサイトに書かれてあるのを見つけました。
(“OutProud”は、LGBTの子どもたちを支援する米国の団体です。
 http://www.outproud.org/ ) 
 内容は「アカデミック」なものではないですが、フィラデルフィアのP-FLAGに参加している親御さんとの会話から導き出された内容のようで、とてもリアルで役立つと思ったので、一部訳出してみました。平田が大切だと思う部分&日本語にしやすい部分だけを訳し、あちこち意訳し、かつ平田の意見を加えて勝手に改変したりししているので、原文と照らし合わせておかしいところはどしどし御意見いただけると嬉しいです。
(※以下は、“OutProud”のパンフレット
 ”Read This Before Coming Out to Your Parents”
 を訳出・一部改変したものです。
 http://www.outproud.org/brochure_coming_out.html )

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(※下記に挙げられたプロセスはあくまで目安であり、子どもからカミングアウトされたことをどのように体験し、どのように受け止めるか・どのように折り合いをつけていくかは、個別のプロセスであり、親御さん一人ひとりによって異なると考えたほうがよいでしょう。
※家庭が機能不全であったり、カミングアウトする以前から親子関係に深刻な問題を抱えている場合には、下記に述べたこと以外の諸要因にも目を向け配慮する必要があるでしょう。)

 多くの親は、カミングアウトされたとき、その出来事を「喪失 loss」として体験します。
 子どもが自分を置き去りにしてどこか別の知らないところへ行ってしまったような感覚におそわれたりします。子どもが「好き好んで」そのような仕打ちを自分に対して「意図的に」しかけてきたような気持ちに陥ることもあります。

<ショック(精神的打撃とマヒ状態)>
 突然の強烈な精神的打撃を受けた場合、心身をダメージから守るために、精神的なマヒ状態に陥るのはある種、自然な反応です。


<否認>
 否認は、脅威的な事柄・苦痛を引き起こす事柄から、個人を防御するはたらきをします。(その事柄を「認識した」という点で、「ショック」状態とは異なります。)
 ●「私の子どもがホモ(レズ)になるはずがない!なにかの間違いだ!」
 ●その話題について触れようとしない。なかったことにしようとする。
 ●「お前がそんなライフスタイルを選ぶのなら、好きなようにすればいい。私は知らん。そんな話はききたくもない。」
 ●「それは一時的なものだ、そのうちおさまるものだ。」


<罪悪感>
 私の育て方に間違ったところがあったの?と多くの親が自問し悩みます。
 大半の親は、カミングアウトを受けた当初は、同性愛を解決すべき「問題」としてとらえ、次にこう問います。「原因は何なの?」 原因をはっきりさせることができれば、それを治す方法も見つかるのではないかと考えるのです。
配偶者との死別や別離や離婚を経ている片親の場合、余計に負い目を感じ、自分を責めてしまう可能性があります。「うまくいかないことはわかっていた。母親と父親との両方同時にはなれっこないのだから。」
 親のせいではないと伝えることがきわめて重要です。性指向を決定づける要因については色々な考えがあり未だにはっきりとはわかってはいないことを伝えることも役立つかもしれません。(この時期、心理教育的なアプローチが有用であり得ます。)
親の体験が書かれた本や冊子をおしえて(渡して)読んでもらってもよいでしょう。親が「権威づけ」するようなものを、読むことの威力は大であると思われます。
 次第に、親の注意は外へ向かっていくかもしれません。外部からの情報やサポートを得ようと求め始めるかもしれないので、支援団体の名前・連絡先等を伝えられるように準備しておくとよいでしょう。
 ゲイ・レズビアンの当事者の団体に行くことには抵抗を覚えるかもしれません。
※この時期、「第三者」による適切なaffirmationが、(親の心が開かれる上で)功を奏することが少なくありません。


<感情の表出>
 罪悪感を感じていたり自分を責めていても状況は変わらないと感じ始めた親は、問いを発し始めます。問いに対する答えに耳を傾けるようになり、対話を欲するようになります。そして、自分の感じている感情を認め始めるようになります。このときが、親がもっとも開かれていく時期です。
 渦巻いていた様々な感情が表現されるようになります。「孫の顔を見れないなんて・・・」「こんなこと、ほかのだれにも言えやしない」「こんなこと、知らないほうがよかった・・・」
 こういった感情を体験し表現するための十分な時間を保障することが大切です。もし、親が本を読んだりほかの親と話すなどの機会をまだ持っていなければ、再度、提案してみてもよいかもしれません。

<その後に親が取り得る態度(三つのパターン)>
 感情的な混乱がおさまるにつれて、親は、より冷静に客観的にこのことを捉えられるようになります。
 その後、このことに対して、どのような態度を親がとるようになるかは、様々な要因によって決定づけられるでしょう。
 親がとり得る態度として三つのパターンを、以下に記します。
 ●サポーティブ: 
 多くの親は、子どもがゲイ・レズビアンであるという現実を受け入れ、かつサポーティブであり続けます。というよりも、カミングアウトされたことで、親と子が相手により正直になり相手に対する信頼感が増したため、今までなかったぐらいに良い親子関係が築けたと多くの親が言います。起こった出来事に対して「よかった」と親も子も思えるようになります。 
 ●「これ以上は御免だ」: 
 「もうこれ以上話をする必要はない」という姿勢を親が示すことがあります。ここまではなんとか理解・受容をしようと努めてきたが、もうこれ以上の理解・受容をしようとはしない、「これ以上は御免こうむる」といった姿勢です。
 このことは必ずしも子どもに対してネガティブな姿勢を持っていることを意味しません。親は自分自身の限界を知っており、その限界値を超えたところまで連れ出されることを避けようとするのです。そのスタンスは尊重される必要はありますが、働きかけを続けることは可能です。
 子どもの同性愛の友人たちと(少人数で)会うことは、親が持っている偏見を軽減するのに役立つかもしれません。 
 ●慢性的な闘争状態: 
 子どものやることなすこと全てが、同性愛という「問題」のせいにされます。夜更かしすること・寝坊すること、どんな言葉づかいをしているか、どんな友人たちとつき合っているか、どんな仕事に就きたいと思っているか、学校の成績など、全てが同性愛のせいにされます。


<受容>
 すべての親がこの段階にまで至るわけではありません。
もしも「子どもの性指向を変えられるものなら、変えたいと思いますか?」とたずねられたら、この段階に至った親は次のように答えるでしょう。「それよりも私はホモフォビックな社会のほうを変えたいと思います、自分の子どもが、拒絶されたり不安を感じたりすることなく、安心して自分の人生を生きていけるように。」
 この段階に至った親は、自分自身がホモフォビックな社会の一構成員だったことを自覚し始めます。自分が、過去に、ホモネタを言ったりホモネタに笑ったりしてきたことを思い起こします。無意識の内に、自分が、子どもを苦しめるような社会のあり方を促進する言動をとっていたことに気づき始めます。このように気づき始めた親は、全てのゲイとレズビアンが抑圧を受けている社会の現況を、新しい視点から、見つめなおすようになります。
 そのような親は、抑圧に対して声をあげるようになります。友人を啓発する目的で、自分の友人にこのことについて話をするようになるかもしれません。息子(娘)の同性愛の友人たちをサポートしようとするかもしれません。親の会に出席してほかの親の助けになろうとするかもしれません。つまり、そのような親は、自分自身が否応なく抱えることになった問題の根源に対してより前向きにコミットしようとするのです。ある人は声高に、ある人は物静かに。

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